書を持って、町へ出よう

宮城ゆかりの本をご紹介します。

地元の方はもちろん、遠く離れた方にも、本を読んで、いつか宮城の町のなかへ遊びにきていただけますように。


『ラストレター』

岩井俊二/著 文藝春秋

日常のうつくしく儚い断面を魅せる岩井俊二監督が初めて故郷・宮城を舞台に制作した同名映画の原作小説。「君に会って、いまだ燻りつづけている自分の夢の火を消そう」と主人公が再会したのは〈君〉のふりをした妹。その謎を機にふたりの文通が始まります。〈時間〉が苦い深みをもたらし、傷も大切に抱えてゆきたいと思える小説です。


『オーデュボンの祈り』

伊坂幸太郎/著 新潮社(新潮文庫)

石巻の田代島や網地島の近くにあるとされる「荻島」。150年前から外界との交流を絶つこの島には、未来を見通し、人語を話す案山子がいる___。リアルとファンタジーが絶妙に入り交ざる面白さ、軽やかに進んでいく物語。荻島を探しに、石巻へ行きたくなります。


『佐藤ジュンコのひとり飯な日々』

佐藤ジュンコ/著 ミシマ社

福島生まれ、仙台在住の著者によるグルメエッセイです。大勢で共にするご飯も楽しいけれど、こだわりのつまったお店でひとり飯をじっくり堪能するのもまた魅力的。ほっこりしたイラストに癒されます。本書片手に仙台の街を探索したくなりますよ!


『本の運命』

井上ひさし/著 文藝春秋(文春文庫)

高校時代を仙台で過ごした著者の生い立ちや、本への尋常ではない思いが描かれたエッセイ。ツンドク本で部屋の床が抜けたエピソード、独特の本の味わい方からは、井上作品の魅力の裏側を知ることができます。本書とあわせて、彼が初代館長を務めた仙台文学館所蔵の愛読書(現物)も必見です。

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仙台駅裏をのんびりと #宮城おさんぽ文庫


読書の秋は、本を携え、舞台となったあの場所へ。

ブクハンの一箱古本市に出店予定だった「みやぎの・アーカイ文庫」とコラボし、今こそしたい「読書×まち歩き」の楽しみをご提案します。

今回のテーマは「仙台駅東口」。

近年、ホテルやオフィスビルが立ち並び、多くの人で賑わう東口ですが、かつて「駅裏」と呼ばれた時代がありました。

のんびり町を歩いてみると、大きく変わってしまった風景の中に、昔の痕跡を見つけることができます。仙台駅東口エリアでみつけた文学ゆかりの場所を歩いてみました!

 

《みやぎの・アーカイ文庫とは……》

みやぎの・アーカイ部部員による本棚プロジェクト。

みやぎの・アーカイ部は仙台市宮城野区在住・在勤メンバーが集まり、「地元学」の学び直しをする部活動です。2019年9月頃より「仙台駅東口エリア」をテーマに調査を進めています。1960〜90年代に撮影された宮城野区の写真をもとに、定点撮影などのフィールドワークや地元の皆さんへのヒアリングを通して、アーカイブ(記録)しながら地元の良さを再発見しています。

『いつかX橋で』

熊谷達也/著 新潮社(絶版)

1945年7月10日、仙台空襲ですべてを失った17歳の祐輔は、ある時、元特攻兵の彰太と出会います。戦後の絶望と混乱の中、生き延びた若者たちが、運命に翻弄されながら立ち向かう姿が感動を誘う長編小説です。終戦前後の仙台が実在の地名で描かれ、教科書には載っていない地域の歴史を伺い知ることもできます。

X橋》

JR仙台駅北側の宮城野橋、通称「X橋」は1920年大正9)年仙台駅の東西を結ぶため線路上部に開通しました。1961(昭和36)年に架け替えられた2代目の橋は、2014年(平成26)年に撤去されるまで住民に親しまれてきました。通称の由来は、上空から見た形がXに似ていたから。

撤去したX橋の一部は、アエル前広場や仙台駅東口の鹽竈神社で見ることができます。

実は今の宮城野橋にもいくつかの隠し「X」が潜んでいます。

『若菜集』

島崎藤村/著 日本図書センター(愛蔵版詩集シリーズ)

1897(明治30)年、春陽堂より発行された処女詩集。1896(明治29)年、24歳で東北学院の作文教師として仙台に赴任した藤村は、仙台駅近くの名掛丁にあった三浦屋に下宿しながら詩作しました。漢詩、和歌が主流の時代に、「まだあげ初めし前髪の……」と始まる「初恋」ほか多くの新体詩を発表した記念すべき一冊です。

《名掛丁藤村広場&初恋通り》

名掛丁藤村広場は、島崎藤村が下宿した「三浦屋」跡地に、その歴史を語り継ごうと2004(平成16)年に整備されました。

仙台駅東口のロータリーから交番脇の小道を進むと、「初恋通り」の看板が目に入ります。

その先に広がる空間には、なんと大きな蝶が舞い降りているのです。

『若菜集』初版本の表紙に描かれた蝶を思い浮かべながら、蝶の居場所を探してみてはいかがでしょうか?